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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    ペインクリニック~医師小沢みどりのこと 

    s322205_1.gifHOSPEX Japan 2015 HPより

    1962年東大医学部麻酔科に、若杉文吉医師の手によって初めて創設されたのが、ペインクリニックという医療ジャンルだった。

    ペインクリニックというのは、簡略に言うと、「肉体に痛みがある場合、局所麻酔薬によって必要な部位で神経回路をブロックして、神経レヴェルでの痛みの循環を断つことで、炎症を抑え血行を良くして、人間の自然治癒力を効果的に促進させようとする治療である」

    レントゲン透視をしながら、麻酔剤を打ち、次に神経部位に達するように見るからに太く長い注射を施すから、一度でも効果を実感しないと思わず恐怖感すら抱いてしまう。施術後には、麻酔が効いているからベッド上で2,3時間は安静にする必要もある。

    若杉医師は、その後関東逓信病院ペインクリニック科部長を経て、慈恵医大の教授に迎えられ、その教えは、新潟大医学部出身の慈恵医大教授湯田康正医師に継がれ、この二人が日本のペインクリニック治療の第1世代を担った。

    東大医学部出身の小沢みどりは、この二人の先駆者から学んだ第2世代のトップ医師となり、慈恵医大から、小岩の病院を経て、本郷に自らのペインクリニック診療所を立ち上げ、毎日数十人の患者に精力的に治療を行っていた。

    私自身も、小沢みどりが作家山野浩一のつれ合いとなってから運良く出会いを得て、言わば「患者としての追っかけ」を務めてもいたのである。第7胸椎の異常を手術してくれたのが、日本の整形外科学会に君臨する東大医学部出身で当時虎の門病院にいた立花新太郎医師であり、この立花医師がかつては同輩が経営していた小岩の病院で週末の土曜だけ診療を担当していたのだが、そこに小沢みどり自身もいた縁もあって、整形外科的治療を終えて以後、まだまだ様々な身体の異常に悩んでいた私を、ペインクリニック患者として引き受けてくれたのである。

    筋肉の麻痺や痙攣、知覚異常・・・挙げればきりがないほどの症状を抱えた私に、今があるのも、14時間の外科的手術によって相当程度の改善を施してくれた立花医師と、それでも残った症状の緩和に努力してくれたのが小沢みどりだったということである。

    その小沢みどりが、久々の休暇を取ってオーストラリア旅行をする寸前の10年前の夏、ひとり自分の診療所に向かう途中の吉祥寺駅で倒れたのである。このとき小沢みどりの脳には血栓によって酸素を供給することができなくなっていた。救急車で運ばれた病院では、実はもうほとんど処置ができないと判断されもした。

    しかし山野浩一の看病や看護に関わる多くの人たちのケアを受けながら、何とか自力で食べ物を飲み込めるまでになり、その後10年の間、脳の破壊はあっても、生き延びてきたのである。

    小沢みどりの本郷の診療所は、学生時代の麻雀友達だった今や著名の弁護士永沢徹が、後見して後始末を引き受けてくれたことも幸いした。診療所には、高額なリース契約による医療機器が取り揃えられていて、契約解除することも、永沢徹弁護士の手腕がなかったらできない相談だったのである。

    昨日2月12日。住まい近くの八王子京王プラザ4Fで、晴れて生き残った小沢みどりの還暦を祝う会が催された。

    集ったのはおよそ50人。永沢徹弁護士もいたし、元患者であったJRA前理事長や社台RHの吉田晴哉追分ファーム代表もいた。
    同じテーブルで隣り合わせたローマ史の東大名誉教授本村凌二も元患者だった。

    宴の終わり頃、私は車いすの小沢みどりに近寄って、
    「みどり先生、鶴木ですよ。お久しぶりです」
    と肩に手を置いて声を掛けた。そのとき小沢みどりは、かつてはペインクリニックの神の手でもあり、今は細く小さくなった手で、そっと手を握り返してくれた。
    あれと思って思わず顔を覗き込んだが、その後は目を伏せるような表情で、小さく顎を揺すったままだった。

    どうしたんだろうと横を見ると、ケアをしている女性が、「それはどこかで判っているという反応なんです」と説明してくれた。

    その言葉こそ、今日、生まれて初めて八高線に乗って、ここに来て良かったと、心の底からそう思えた瞬間となった。






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