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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    出石1番弟子清征の現在 

                            清征作 天童楷書③龍王(清征作 漆入れ前新作 天童楷書)

    無事に終わった81回日本ダービー。
    横山典弘ワンアンドオンリーの勝利は、爽やかな印象を醸し出してくれた。
    想い起せば、管理する橋口弘次郎調教師自身がダービーでは2着の悔し涙に塗れたことが多く、一時期の騎手横山典弘もG1のステージでは何故か勝てずに、好騎乗の2着を続けていたこともあった。両者共に、そんな悔しさを乗り越えての会心の勝利だったことが、爽やかな印象を生んだのだろう。

    終わってみれば、不思議なこともある。皇太子ご来場のこの日のキーワードは、2・23という数字だったらしいのだ。
    54歳になられた皇太子、ダービー馬ワンアンドオンリー、騎手横山典弘、そして馬主前田幸治の誕生日が、揃って2月23日だったのである。何という偶然なのか。運命は、ときにこんな符牒を合わせて不思議ないたずらをする。あくまでも偶然の為せる技だったのだろうが・・・。


    ダービーを迎えるまでの間に、実は私は、駒に関わる実験的な試みをして、気を静めてその日を迎えようとしていた。

    机の前には、蠟色漆があった。文字を書くための漆である。この漆を使って駒文字を書いてみたくなったのである。
    面相筆よりも版下筆の方が筆先が細く書き易いことは、以前に由進=出石から聞いていた。しかし思いついたようにやろうとしたので、版下筆がなかった。注文しても2・3日はかかってしまう。いざ決めたら気が短い性格なので、そんなには待てない。
    さてどうしようかと考えて、思いついた。幸いにして、髪の毛はまだまだ若々しく多い。ならば自分の髪の毛を使って作ってしまえば良いではないか?人毛の筆なんて言うのも、粋で乙なものかも知れない。

    指先で、長い髪の毛の部分をクルクルと巻き込んで掴み、ハサミでチョキーン。そのまま木工ボンドで根元を固めると、小さな毛髪の束になる。それを筆の先に差し込んで、そこでまた木工ボンドで固定する。後は乾くのを待って、毛先を丁寧に整えると、何とか出来上がった。私の髪の毛は剛毛ではなくしなやかで柔らかめなので、まあイタチや鼠や猫や狸狐並みには使えるだろうと信じたが、確かにそうだった。

    容器に蠟色漆を溜めて、ウルシオールが混ざる様にしばらく撹拌して、またふたを閉めて1日置いた。実験用なので、漆の中のゴミを濾す手間は省いてしまったが。

    1日経って、蓋を開けると漆が膜を張っている。そこに穴を開けて、世に珍しい人毛筆の筆オロシ。若いときの筆オロシなら、いかにも感動的だが、今回はそうでもなかった・・・?

    ともあれ、手元にある駒木地を用意して、しっかりとスタンドの照明を当てながら、眼を集中させて書き始めた。書体は事前に練習した清安の銀。その甲斐あってか、自分なりに満足できる仕上がりとなった。細いところは細く。曲がりも震えず、グッとタメを利かすところは利かして。

    おお上手くなったと、書き上げた瞬間には自分を褒めた。人毛筆も使いやすく、知恵の勝利と満足してもいた。

    しかし、しかしである。一晩経っても、漆が固まる気配を見せなかったのだ。

    ダービーを迎える前の静寂の中、2日経っても、3日目を迎えても、固まるどころか、ダラッと溶けかけているような印象なのだ。

    危機感を持った私は、別件を装ってまずは出石にTELして、話の合間に訊いてみたが、
    「いやぁ、私の場合は、漆がそんなことになったことがないですよ。どうしちゃったんでしょうねぇ・・・漆が固まらないのは、大体が固まらなくさせるものが木地に付着している場合がほとんどなんですけど・・・」
    どうすればいいと直接的な解答ではなかった。まあ、私のような素人の悩みを現役バリバリの駒師に訊いても、悩みの問題を共有できることはないのは当然だろうと合点したのだが、言われたことが正しかったと、後日知ることになったのである。

    もう1日考えて、はたと思いつき、今度は若手1番弟子の清征にメールを出したのだ。
    翌日、律儀にも清征からの携帯が鳴った。
    「いくつか考えられますよ。まずは漆自体がダメな場合。漆は生き物ですから不都合が起こり得るんです。ある駒師さんが10本の漆を買って全部ダメだったなんて話もありますから。次は、駒木地が蝋などで磨いてある場合や乾いていない油が染みついている場合。これはくっつきませんから。目止め材は良いんですけど、蝋や油が付いているとダメです。固まりません。こんなことを知らないでいると、彫埋め駒を盛上げてくれませんかと作った駒師に依頼しても、蝋磨きがしてあったらできませんと言われてしまいます。蝋をきちんと落とさなければ、漆が固まらなくて盛上げはできませんし、一度つけた磨きの蝋を木地を削って全部落とすのは相当な手間だし、それなら最初から作った方が安心ですから・・・・・」

    他にもいろいろと教えてくれたが、すでに私は必要な答えを得ていた。
    素人の私は、手元にあった駒木地を、無知な善意でイボタ蝋を使ってピカピカに磨き上げていたのだ。固まらない理由を自分で知らずに作っていたのだった。
    蝋が理由で漆が固まらないのなら、原因は判明したことになる。無知と勉強不足が招いたお粗末な結果だった。

    そう言えば、以前に出石とこんな会話をしたこともある。
    「例えばガラスの上では固まらないんですよ。正確に言えば、湿気があれば固まるんですけど、ガラスにはくっつかないんです」
    「だったら、ガラスの下に字母紙を置いて文字を写して書く練習ができますね。漆は油に溶けるから、後で油で拭き取ってしまえば良い訳だし。筆先も油をつけて管理しますよね?」
    「漆は油に溶けますからね。例えば塩などの塩基類も漆を固まらせないんですよ」
    「化学の知識がないから、不思議です・・・」
    漆が、ウルシオールが働いて固まるのには、固まる条件が整わなければならないのだ。

    漆の固まらない原因を教えてもらって安心した私は、次に清征自身の駒作りの進歩進捗状況を訊ねた。
    清征は答えてくれた。
    「時間がかかりましたけど、天童楷書の彫駒が後は漆を入れるだけになってます。初めて師匠から教えられた彫駒用のシェラックニスで目止めをするので、今は最終確認中で、OKとなったら漆を入れます」

    清征の天童楷書彫駒は、こんな風に仕上がった。

                       清征作 天童楷書      清征作 天童楷書②

    まだ10作にも足らない作品量ではある。しかし、私の手元にある清征の「篁輝」を見てもそうだが、やはりこの時点でも資質というのは現われて来るものだということが判る。これだけのモノが彫れれば、これからが楽しみだ。

    漆の固まらない原因も判ったし、出来上がりを期待できる清征の新作も確かめて、私は満足一杯の満ち足りた気持ちで電話を終えたのだった。
    心の中では「ありがとうございます」と、ひたすら感謝していた。





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    category: 将棋駒

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