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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    由進の駒音 

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    何となくバタバタとした1週間が過ぎて行った。それも由進の駒が主役の1週間が。

    こんなことはそうあることもない。私にとって密やかな最大の関心事は、昨日カメラマン石山勝敏と共に出向いた某編集者たちとの打ち合わせだったのだが、(それがどんな結論になるにせよ、かつて最強コンビと呼ばれたチームの復活がもしあるとすれば一部ではそれなりの反響を呼ぶだろう)その前に、まずは由進の駒のことで対応しなければならないことが生じていた。

    お二人の「駒師由進」本購入者から、メールで「ぜひ由進の駒の実物を見せて欲しい」と依頼されたのだ。一瞬どうしようかと迷ったが、読者であり同好の士の頼みごとなら受けないわけにはいかないと考えた。と言っても、私が今手にする4組の駒で希望に適うかどうかは定かではなかったが、参考までにということなら、お役には立てるだろうと踏ん切りをつけた。

    一人は、群馬M市在のIさんだった。NHK「おはよう日本」の画面で出会った由進の駒に妙に魅かれてから、ネットで検索して本を購入。それだけに止まらず、私にメールをくださった。3年前に公務員を無事定年退職され、ご自身の言葉によれば「今はサンデー毎日」の悠々自適の生活だという。お座敷がかからねば二束三文のその日暮らしの原稿書きからすれば、羨ましい限りだ。でも38年間の人生の時間を組織の中で無事に過ごせる自信も、どうも私にはないのだが・・。

    Iさんは、自宅から何度も私の住む秩父辺りに来たことがあり、私よりはずっと周辺に詳しいようだった。だから私の時間に合わせて秩父に来られるという。北関東、関越自動車道、寄居バイパスを使えば、1時間半でおつりがくる。で、私とIさんは、秩父某所で、ささやかな密談をとり行うこととなった。

    Iさんはすでに所有する40年前に自ら天童に行って買った香月作薩摩黄楊錦旗盛上げ駒や、その後に手に入れた富月作島黄楊根柾菱湖盛上げ駒、同じく富月作赤征水無瀬彫埋め駒、江陽作島黄楊柾目巻菱湖などを、参考になればとわざわざ持参してくれたし、碁盤師吉田寅義の著書を手元に2冊あるとしてプレゼントしてもくれたし、「名駒大観」は必要ならお貸ししますと言ってもくれた。ついでに群馬の辛口の地酒「赤城山」をもお土産として下さった。全ての駒は、奥山正直作の平箱に収められていた。

    恥ずかしながら私はといえば、由進の古流水無瀬、巻菱湖、宗歩好の3作を持参しただけだったが、それ故、その後2時間以上、Iさんの意見にも耳を傾けながら、丁寧に私の考えつく駒の魅力を語り続けたのだった。喋り過ぎて、アイスコーヒーをお変わりするほどだったが、最後に店からアイスクリームデザートが差し入れされて、予期せぬこれには喋り疲れた体が癒された。

    私たちはそのまま別れたが、翌日、
    「実物を見て、由進の駒の確かな腕と魅力を改めて知りました。まだ、由進師がわずか5年のキャリアだとは信じられません。折を見て、直接に由進師に連絡をしてみます」
    というメールが届いて、私はまた一人確かな由進ファン仲間が誕生したことを喜んだのだった。



    それから3日後の昨日、午後に打ち合わせがあった私は、朝8時に家を出て、まずは新宿に向かった。

    御苑前にある青山碁盤店。古くからある老舗の碁盤店だ。開店早々の10時半に、私は店主青山恵昭を訪ねた。彼もまた、とある機会から、「駒師由進」本を2冊購入してくれてもいた。駒師由進に関心を抱いてはいたが、まだ由進の駒を実際に手に取ってみたことはなく、この日たまたま打ち合わせに東京に出向いた私が、実物を手に取って見てもらう役目を務めることになったのである。これも偶然が生み出した出会いだった。

    やはり古流水無瀬と巻菱湖を広げながら、私たちは、3時間もいろいろなしかも真剣な駒談義に没頭したのだった。店主として、青山恵昭は言った。

    「お客様にはいろんな方がおられますが、うちには昔から結構辛口な方が来られます。コピー作品は要らない、私がこの目で認める本物の作品が欲しいとか言われて。そんなお客様には、思眞作の駒が人気です。思眞さんは、たまに気が向くと作品を持ってフラーっと店に現れるんですけどね。最近も長禄書をHPに載せていたんですけど、載せるとすぐに駆けつけて購入されるお客様がおられるんです」

    「先代が店主だった頃から、ずっと竹風さんにはお世話になっていますが、初代竹風さんは苦労なさった方で、戦争で中国に行って脚に銃弾を浴びてもいるんですよ。店に来られた時なんかに、私の父と戦争の話で盛り上がっていましたもの。それを隣で良く聞いてました」

    「以前に静山さんの何の変哲もない板目交じりの駒を置いてましたけど、この駒はじっと見つめていると、何故か心が安らいでくるような感じがありました。本当に不思議だったんですけどね。そんな印象が、由進さんの駒にもあるんです。じっと眺めているとホッとするようです。私は、この古流水無瀬に魅かれます」

    「2代竹風さんの巻菱湖と由進さんの巻菱湖。より菱湖書体の千字文の原点に近いのが竹風駒なんでしょうが、こうして並べてみると、龍山形の由進作巻菱湖にも感じるものがあります。それが本物の匂いなんでしょうかねえ・・」2代竹風 巻菱湖 杢    y ryouko



    私は、この3時間の間に、店主青山恵昭から、隠れファンでもある初代竹風の、杢木地盛上げの初代独特の昇竜書体雛駒や黒檀に彫られた奥野錦旗の元となった昇竜書体彫駒をも手に取って見せてもらった。

    もう一つ、もし私と同じ初代竹風ファンがおられたら朗報がある。今青山碁盤店のHPを見ると、板目交じりの昇竜書彫駒が載っている。価格は2万9千円だ。木地は、板目交じりではあるが、ほとんどの駒が模様が面白い木口杢だ。使って磨けば、すぐに輝きを見せるだろう。この駒は、20年以上も前に納品された初代竹風の作品である。2度と手には入らない新品が、この値段で売られている。HPの写真より、実物の方がいいのは昨日この目で確認済みだ。興味ある方は、今すぐにチェックしてくださいませ。私には、隠れた掘り出し物と思えてならない。だから一組は、来月に上京する予定の由進と一緒に青山碁盤店を訪ねるまで、取っておいてくださいと予約をお願いしたのだった。だから残りは本当に僅かである。初代竹風 昇竜書彫駒


    この1週間、人との出会いの不思議さを改めて教えられたような気がする。Iさん然り、青山恵昭店主然りである。こんな出会いをきっかけにして、人は人との間を生きるのだろう。つまらない奴とつまらない時間を費やして接するのは無意味の極みだが、こんな出会いなら刺激が生まれるというものだ。

    今私は、意味や理由のない出会いはないのだと、そう思っている。それにしても由進の駒のことを改めて考えさせられた1週間だった・・・。


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    category: 将棋駒

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