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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    経験の眼鏡 

    由進作 勝運駒

    どうも人間というのは、自分自身の経験の眼鏡が離せないものらしい。

    若いときは、それでももっと何かがあるかも知れないと、まだ謙虚だが、老いた後はそれはあるいは老醜であり陋習と言えるのかも知れない。

    物事は、最初の段階では、習うより慣れよとされる。そのこと自体は素晴らしいことだが、慣れた後に、それを絶対なものとしてそこから先の創意工夫を忘れると、所謂常識のダークサイドに入り込んでしまうことがある。それが恐ろしい。

    昔からそれぞれのジャンルで、専門職の言い伝えというものがある。それはそれで参考にすべき含蓄のある言葉なのだが、その言い伝えが生まれた時代背景、その時代の文化水準、科学技術などを無視して絶対視すると、おかしな常識がそのまま語り続けられてしまうのではないだろうか。

    例えば、最近、駒師由進からいい言葉を聞いた。

    「昔から漆は生きていると言われているんです。確かにそうです。だから湿気の多い梅雨の時期や、気温の低い冬場は、盛上げには向かないと言われてきました。やはり気温や湿気のいい春や秋が盛上げ作業にはいいんです。駒師になった頃、私も漆には悩まされましたよ。でも、ある時ふと思い当ったんです。それなら今を春や秋にしてしまえば良いじゃないかと。昔は無理でしたが、現在ならそれが自宅で可能ですからね」

    つまり活きた漆のやんちゃに合わせるのではなく、周りの環境を漆のために整えてしまうという発想こそが、常識にとらわれない態度なのである。或いは、漆を使うとは言え、小さな将棋駒だから可能な方法なのかも知れないのだが。

    常識には、立ち止まって考えると、常識の不条理が支配していることがあるのだ。多くの人たちが言われるままの常識に疑問を持たず、そういうものかと受け入れている場合が多いし、先人もまた言われたままをさらに言い伝えてしまうことも多い。

    確かに新しい工夫というのは、実際にやってみて、成功の証明が必要である。やってみてダメならまた考えを改めて、再度新しい創意工夫に挑めばいい。もしOKなら、大いなる進歩となっていく。由進の場合には、最初に新発想で創った盛上げ駒は、もうそろそろ5年も経っているが、固まった漆には、何も不都合は生まれていないという。手元に、盤に打ち付けて自ら確かめるための駒を確保していて、日々チェックしているが、その駒に悪い影響などは表れていないのだ。何か不都合があるなら、当然もうその兆しが表れていても不思議はない筈なのに。

    私自身が、駒師由進に魅かれたのは、こんな進取の精神を持って、駒創りに挑戦していたことが大きい。作品だけでなく、勿体つけずに率直に話すその言葉にも何らかの刺激を受けるからである。同時に、ツーと言えばカーと返答が返ってくる響きが心地良いからでもある。それがいいのだ。

    これまで、聞き手の立場で、いろいろな人たちに話を聞いて取材をする経験を積んできたが、これは本物の言葉だと思えたのは、いつも経験の眼鏡で見た眺めを、受け入れながらも絶えず疑い、疑いながらも尊ぶという柔軟な度量のある人たちの言葉だった。その瞬間、彼らは勿体つけた尊大な態度は決して示さなかった。謙虚に、あくまでも謙虚に、自らの場所での自らの思うところを語ってくれたのだった。

    そう言えば、明日は天皇賞。進取の精神に満ち満ちて、今や巨大となった社台グループの代表たちのこんな言葉も、私には聞いていて心地良かったものである。

    「馬券は買わなきゃ当たらない。種馬は、買って、産駒が生まれて、それが走ってみなけりゃ判らない」
                                  社台ファーム代表 吉田照哉
    「ボクらはね、馬喰なんです。馬で生きているんです。いい馬がいたら買って、育てて売る。やがては種付けもする。それに尽きます」                    ノーザンファーム代表 吉田勝巳

    世界を相手に、日本の馬産業をリードする男たちすらも、少しも勿体つけることなどなかった。とてもシンプルに自らの為すべき役割を語ってくれた。だからこそ躍進を続けているのだ。そう思う・・・。                            
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    category: 日々流動

    thread: 異化する風景  -  janre: 学問・文化・芸術

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