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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    駒木地~その③ 虎杢と幻の銀目 

    toramoku1-3(虎杢)  toramoku1-2(虎杢)   

    次に取り出されたのは、虎杢の木地だった。

    じっと眺めていると、思わず駒形の刻まれた虎斑と杢模様の複雑なバランス世界に魅了されて引き込まれそうになる。

    それはおそらく、妥協なく統一的に揃えられた駒木地が生み出すものなのだろう。奇跡的な偶然を手掛かりにして、原木の中に隠されていた木の自然な模様美を、確かな腕で丁寧に計算しつくして駒形にあぶり出す。そして妥協のない1番取りの揃いを施す。そうしなければ、ここまでの駒木地は生まれはしない。

    まさに希少な黄楊の宝玉なのである。

    気になる瑕疵に眼を瞑れば、価格は下がるが、その瞬間に希少性はどこやらに飛んで行ってしまう。その程度の木地になってしまうからだ。しかしプロの木地師の眼で細部にまで拘って、胸を張って自信が持てる駒木地なら、次に出会えるか否かも判らない(黄楊の模様は自然の美であり、神のみぞ知る世界だからだ)希少性故に、価格が高くなるのはやむを得ないことである。

    人が競って求める物を、自分だけが安価に入手しようというのは、たぶん虫のいい話でしかないのだ。いつの世も、本物いい物は高価であり、高価故に人はまたそれを求めようとするのだろう。

    先の根杢木地と比べて、この虎杢木地は、さらに5割増しの価格が付いた。それでも木地師杉亨治は積極的に売ろうとはしなかったそうである。木地師として傍に置いておきたいレヴェルの駒木地だったようだ。
    もしつけられた価格に異議があるのなら、よい柾目で我慢したらいいだろう。駒師杉亨治の元には、1組1万5千円ほどから目の立った良質な柾目木地も用意されているのだから。

    平箱にきちんと収められたこの虎杢木地を見ていた私は、まだ駒にもなっていない駒木地の世界に、明らかに魅了されていた。これだけの木地なら、敢えて駒にしなくても充分に楽しめると、不思議な気分に浸っていた。やはり、黄楊の木は魔性の世界を持っている。

    この木地の現所有者は、仕事で得たここしばらくの貯金をはたいて、先の根杢とこの虎杢木地を手に入れたという。そんな勇気を発揮した瞬間の心の高揚感やその後の満足感に浸れる自尊心を思えば、よくぞ決断したと喝采を送るべきなのかも知れない。よくよく考えれば、最高の木地が、中古の軽自動車を買う範囲で入手できたのだから。

    「この木地は、吉岡出石作の水瀬兼成をお願いしようと思ってます。いや出石作なら呼び名は水兼成かな。今の出石作の駒は、筆使いに香ぐわしい味わいが生まれてますから・・・完成までには1年やそこらかかるから、それまでは働いて製作費を稼げますからね(微笑)」
    「そう言えば、木地を仕上げた杉さんは島黄楊縮杢の出石作盤寿の駒(水瀬兼成書体)をコレクションしている。この木地ならその上を行く仕上がりになるんだろうね」
    「エヘヘ・・・」

    彼と別れて、一人電車に乗った私は、今日の出来事を振り返っていた。
    「黄楊は、つくづく怖ろしい木だ・・・ハマれば底なし沼だな・・・」

    結局は、それぞれの人が駒の中に何を見出しているかということなのだろう。私自身は、個性が発揮された書体や漆の筆使いにアートの美を見出そうとしている。木地が褒められる駒師より、盛り上げの筆使いが味を発散する駒師が好きだ。が、駒木地の模様と漆文字のバランスの美に魅入られている人もいる。
    どんなアプローチであろうと正解なのだろう。だが、駒は、あくまでも道具である。榧の盤の上で舞い踊り、指し手の人生をも決めてしまう道具であることだけは忘れてはいけない。そう思えてならなかった。

                         toramoku30.jpg(虎杢)     masame2-5up.jpg(柾目)
    並べてみても、どちらも同じ黄楊の木だ。共にそれぞれの価値があるのである。


    2・3日後、彼から改めてメールがあった。1枚の写真が添えられていた。

                                ginme50.jpg(幻の銀目)

    木地師杉亨治が、木地師となってようやく出会えたという銀目の木地だった。言わば「幻の銀目」木地だ。いつもは杉亨治の手元で奥深くしまい込まれて、通常の来客には披歴されることもない。その意味でも幻の木地だった。根杢と虎杢を入手したとき、初めて見せて貰ったのだという。そのときの写真である。

    写真を見ての通り、もはや言葉など要らない。とにかく影水形の木地から発散される香気を感じ取って欲しい。
    魔力を発して観る者を惹きつける大きな力に満ちている。
    エッ?その価格?それは、言わぬが花というものだろう。口にしたら野暮でしかない。
    でも、ここまで3∼4回に渡って、駒木地編につき合って下さったから、少しはヒントを。どうやら根杢+虎杢=幻の銀目という数式で、ほぼ近いのではないか。私はそう思っている。

    それにしても、道を楽しみ、道を極めようとするのは、なかなか根性と執着と勇気がいるものだと、思い知らされたのだった・・・。






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    category: 将棋駒

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    駒木地~その② 杢 

    目の立った柾目や、斑入り柾を楽しんで、充分に満足していた私の前に、次に出されたのは杢木地だった。

    ここから先の駒木地は、正直に告白するなら、見なければ良かったと思う。見ることなく知らずにいたら、ある程度の木地でも納得できたのに、知ってしまえばそういう訳にはいかなくなるではないか。

    杢や虎杢や銀目の世界は、1組42枚の駒木地を揃えるのが大変で、それ故希少価値が価格を決定することになる。揃いを妥協すれば、あるいは数本の原木から取り繕うように揃えるなら、安価な価格もありなのだろうが、1本の原木から揃わせるとなると、どの木にも必ずあるというものではないだけに、希少価値は一段と高まり、価格も跳ね上がるのだ。

    nemoku1-3    nemoku1-2

    写真だと、今一つ輝きがはっきりとしないが、実物を手に取って眺めると、もはやそれは輝く宝玉の世界となる。きちんとサイズも一定に配慮され、微小な歪みもない。
    ここからは私も、ただただうっとりと無言で眺めるだけだった。

    この駒木地を、今日いろいろと見せてくれた購入者は、木地師杉亨治から手に入れた。最高の杢木地である。1本の原木から揃えられ、同時に瑕疵のない揃いを誇る最高レヴェルの駒木地。その希少価値から、おそらく価格は20万円前後だと私は推察した。

    ただの杢木地なら、例えばオークションなどでは駒1組分は5万円ほどで手に入るかも知れないが、やがて勉強して眼が肥えてくるようになると、結局は飽きて、いわゆる安物買いの銭失いになりかねない。怪しいものも流通しているようだし・・・。

    ただ初心のうちに、それなりの杢木地を欲しいと思うのなら、鹿児島の紫原つげ印材店の薩摩黄楊孔雀杢の1組なら、3万円前後で入手できるから、敢えて島黄楊に拘らなければ、これは実用の駒木地としてはお勧めである。聞くところによると、現在は紫原印材店の駒木地は、どうやら静岡県辺りで成形されているらしいので、まあ今風の駒形になっている。この木地も見せてもらったが、すでに私自身が薩摩黄楊孔雀杢の駒を持っていることもあったし、何よりも眼の前の島黄楊駒木地の圧倒的な本物の輝きに眼を奪われてしまっていたので、写真は撮らなかった。

    問題が一つあるとすれば、果たしてこんな宝玉のような木地を使って駒を作れる現代駒師がいるのかということだろうか?

    この杢木地の所有者は、「一生懸命働いて軍資金を貯めて、いずれ近いうちに、蜂須賀芳雪作の彫り駒をお願いする予定です」と、彼流の固い信念を語ってくれた。
    もし出来上がれば、おそらく最高レヴェルの彫り駒となるだろう。どんな書体となるか、楽しみにしたい。

    この日の駒木地鑑賞会は、ランチに秋田の郷土料理を楽しみながら、まだまだ続いた。私は、冷たい稲庭うどんと比内鶏のミニ親子丼のセットを選び、彼は、故郷秋田のきりたんぽ鍋を懐かしそうに味わっていた。

                           nemoku22.jpg


    ☆この項さらに続く。次回は、今日の杢木地の上を行く虎杢、そして幻の銀目と進みます。





    category: 将棋駒

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    11月22日マイルチャンピオンS~京都芝1600m 

    埴輪馬
    秋天皇賞を終えて3週間、私はイスラボニータの右回りのマイル戦出走を楽しみにしていた。必ず勝負になると信じて、楽しみにしていた。

    だがレースは生き物であり、魔物でもあった。

    最終追い切りの気配も良く、父フジキセキ、母の父コジーンという血脈を考えても、また、最後にギアをもう1段階上げての2段階攻撃の利かない差し脚にも、京都コースのマイル戦ならと思えてならなかった。

    パドックからゲートインまで、まるで何事もなく進行した。今日の好走は、「約束された予定調和の結末」と確信は募った。

    しかし・・・。

    全馬が揃ってゲートが開くのを待つその瞬間、イスラボニータはバタバタと、首を振りながら上下に動いた。そのときだった、ゲートが開いたのは。

    そして出遅れた。秋天皇賞では外枠に泣いたが、この日は絶好の5番枠だった。だが、出遅れては、絶好の枠が一瞬にして最悪の枠になってしまった。ゲート内で静止状態を保たせるのが、騎手の手腕か否かは一概には言えない。しかし一つだけはっきりしたのは、この秋のイスラボニータは運に恵まれない馬だったという事実である。レース最速の上り3F33秒の脚を披露したが、辛うじての3着がやっとだった。「好位の後ろのインのポジションから直線は止めに先頭に立って・・・」というレースを期待した私だったが、それはまたも見果てぬ夢物語に終わった。

    直線を馬場の真ん中から、いっきに勝負を決めたのは、世界のR.ムーア騎乗の春の安田記念馬モーリスだった。春秋のマイル戦G1連覇は、8年前のダイワメジャー以来の記録だという。安田記念から休養明け初戦でのG1勝利だから、調教で仕上げた陣営の調教技術には感服せざるを得ない。

    ムーアの騎乗に、実は私はもう一つ心を奪われたことがある。この日の午後の数レースで、インから伸びようとしたムーア騎乗の馬は、日本のジョッキーの意図的な包囲網にあったように、馬群から抜け出せずに終わっていた。ひょっとしたら、ムーア潰しの暗黙の了解事項があったのではと思えるほどだった。

    しかし、さすが世界のトップジョッキーだった、R.ムーアは。
    本番になったら、有無を言わせぬ中団外のポジションからの安全な怒涛の追い込みを決め打ってみせたのである。引き上げるとき、馬上にあったR.ムーアは、人差し指と中指の2本の指を軽く振って観客席に向かって勝利の合図を送ったが、その表情には大胆不敵さが溢れ出ていた。それがいかにも素敵だった・・・。

    2着は、昨年に続いてフィエロが確保した。昨年は福永祐一騎乗だったが、今年の鞍上はM.デムーロだった。この馬も力がありながらほんの僅かなところで勝利に見放される不運な馬と言えた。

    レースを見終えて、私は、勝負の世界の厳粛な事実を改めて想い起こしていた。

    「勝者は全てを奪い取る」
    「幸福は、他者の不運の涙の上にある」

    その言葉を思い浮かべながら、しかし
    「美しい敗北は、明日を目覚めさせる原動力だ」
    と、心の中で意地を張って、この日を終えることにしたのである。







    category: 競馬

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    駒木地~その① 柾目 

    masame2-5up.jpg柾目

    itomasa1.jpg糸柾

    さあ、駒木地を考察しよう。
    その①は、柾目と糸柾。

    最近の駒ファンの間では、なかなか本来の価値を見出されてはいないようだが、駒が完成して、その後使い込んでいくと、5年10年と経てば明らかに変貌して魅力を発揮してくる木地である。何といってもコストパフォーマンスがいいし、駒字や彫りの腕や、あるいは盛り上げの腕前をはっきりと刻み込んで、実は作者に誤魔化しや甘えを許さない木地なのだ。

    オークションなどでも木地の販売はされているが、手にとってみられないから、はっきり言えばゴミのような揃いでも通用してしまっている。愚かなことだ。きちんとした木地師と懇意になって、入手するなら、エッと驚くような安心価格で手に入れることもできる。

    写真の駒木地は木地師杉亨治作の木地だ。

    おそらく彼のHPなどからきちんと連絡して希望を伝えて依頼すれば、柾目の駒木地の流通価格は大方の相場が決まっているから、良いものが適正価格で手に入るだろう。

    キリッとして目の立った柾目の魅力は、手元で使い込めばこむほど発揮されてくるから、多少時間がかかるが満足度は高い。あめ色に育てば、そのときは勇壮で迫力のある風情を醸し出すだろう。

    釣り人が、フナに始まりフナに終わるなら、木地愛好家は柾目に始まり柾目に戻るということだろう。巷の風説に流されず、柾目の魅力を見出す感性は、利休の侘び寂びの精神にも繋がる美意識だと言い切ってもいい。

    写真のような柾目の美をぜひとも感じていただきたいものである。

    ☆この項、さらに続く。









    category: 将棋駒

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    高価な駒木地 

    DSCN1375_20151117205646b9f.jpg 木地 赤柾②

    将棋駒の駒木地にも、いろいろある。

    柾目、赤柾、根杢、虎斑、虎杢・・・。そして、それぞれが特徴によっていくつかのパターンに分かれて、いろんな名前が与えられている。

    近年は、何故か派手な木地が好まれている風潮があるが、私自身は、駒字や盛り上げの技に眼が魅かれるので、それほどのこだわりはない。一つの駒形を絵画で言うところのキャンパスと考えるなら、色や模様付きのキャンパスなど、本来中心にあるべき絵(駒なら駒字や盛り上げの芸だろう)の冒涜であるとも言えるからだ。

    しかしファンの間では、どうせ高額な代価を支払うならばと、派手な木地が選ばれていて、需要と供給のバランスからか、それ故派手木地というだけで駒の取引価格も高く設定されているようだ。

    勿論、黄楊の木地には、言い知れぬ魅力を放つ地模様があることは承知しているが、それを楽しむなら、駒にしないで、木地鑑賞用の駒形を平箱に収めて眺めている方がいいのではないだろうか?と、何となく思っていたのは事実である。

    キリッとした顔立ちの柾目の駒が、使い込まれて時間が積み重なるように刻まれていくと、いかにも男性的な豪快さを漂わせるようにもなる。聞くところによると、杢や虎斑などの部分は、本来の黄楊の木の病気の部分だという。柾目は健康そのものだが、他は歪な病的部分らしい。まあ、だからこそそれが、魔性の魅力であるとも言えるのだが・・・。

    昨日、某所から電話があった。何と、いかにも高額な(多分静山や木村の良質な盛り上げ駒作品が購入できるほどだ)価格で、虎杢の駒木地を入手したという知らせだった。

    「迷ったんだけど、貯金はたいてしまいました(苦笑い)・・・でもそんなことをしていると、自分が救われる感じがするんです・・・」
    「あんまり無理はしない方がいいよ。いずれ無理しなければいけない瞬間はおとずれるんだからさあ・・・でも、その駒木地でいつか何かを作るのかな?」
    「いえいえ、トンでもありません!ただただ、眺めているだけでうっとりと満足できますから」
    「そりゃあ、そうだろうけど・・・でも満足のための勉強代は大変だ」
    「そこまでやると普段の仕事が忙しくてもやる気になりますからね」
    「世間の普通の駒ファンは、おそらく数万円台の木地でああだこうだと言っているんだから。私自身は、駒師の製作費より高額な駒木地というのは理解できないんだけど・・・・でも、まあ多くの人が体験できないことをやってのけた勇気は買います」

    などと、からかい半分に電話を終えた。
    私自身は、まだ15万円を超える駒木地を見たことはない。その木地ですら宝物に見えたが、それ以上のものとすると、実は想像がつかないのだが、運が良ければ近々その駒木地を見せてもらえることになった。手にしたら手が震えてしまうかも(苦笑)

    もし実見できたら、きちんとご報告したいと思っていますので、乞うご期待です。

    ☆最近、将棋駒の話題が少ないとの指摘がありますが、何せ清貧の身故、次々と購入する訳にもいかず、以前に依頼してある駒の完成待ちの身分ですので止むを得ません。どうやら駒の世界には、ここしばらくの間に、善良な駒愛好家もいれば、高値転売を狙う駒収集家も、看板を掲げぬブローカーもいれば、それこそ玉石混交と知りました。
    もし仮に、将棋文化に関わり、その意義を語るなら、少なくとも商いとして看板を掲げぬ棋具売買の繰り返された事実を他者に見透かされてはいけないでしょう。趣味の世界にそんな人(たち)までもが蠢いていることを、純な私はある意味見過ごすほどの初心者だったのかも知れません。
    同時に、「安価に買い叩いて高価に売りぬく」そんな余得が生まれる可能性があるからこそ、人は勤勉にもなれるんだということも学びました。
    どちらが正しいのかということは、現時点で正解を得てはいません。私たちの国日本は、切腹の儀式に窺い知れる様に、伝統的に「恥の文化」の国でした。「恥を知る文化」と置き換えてもいいでしょう。しかし利を目的とする経済行為は、ともすれば「恥じる」ことを見失いかねません。ですから私自身は、趣味の世界であればこそ善良で恥じらいを持った愛好ファンでこれからもありたいと決めています。

    ともあれ、皆さんには、まずは、できてもできなくても、取り合えず1組の駒を自作されることをお勧めします。自らやってみれば、その出来栄えはともかくとして、何が必要で、何が不必要かということが整理されますし、そうなれば無駄な駒を欲しがらなくなりますし、良い作品をも見抜けるようになるとも思います。道具であり熟練の職人の手で生み出される駒世界は、知れば知るほど、理解すれば理解するほど、開けて行く筈です。そのとき本当に審美眼に足る作家も、作家の人間性をも見分けられるようになるでしょうから。






    category: 将棋駒

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