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    Tsuruki Jun<鶴木遵>の原風景 《絶対零度》

    鶴木遵の本、新しい挑戦、趣味である競馬、将棋の駒、男の手料理、めだかやミジンコ飼育、犬猫のよもやま話、など四季折々に感じたことを発信していきます。

    騎手だった後藤浩輝へ 

    埴輪馬

    今は、ただただ何故としか言えない。

    後藤浩輝。JRA騎手、40歳。2012年5月、2014年4月と2度の頚椎損傷の落馬負傷を克服して、したたかにターフに復帰したトップジョッキーだった。そう、つい昨日の夜までは。

    だが、家族のいる自宅で、それまで会話もあったのに、一人で旅だってしまった。縊死だという。

    私がレースを見られなかった先週土曜(21日)のダイヤモンドSで、リキサンステルスに騎乗して、落馬。頚椎捻挫の診断を受けたというが、翌日曜日には京都に遠征して2勝した。

    今週になって栃木でリハビリを兼ねた治療を受けてもいたらしい。

    だから、余計に何故という思いにかられてしまうのだ。

    敢えて思い当たることがあるとすれば、私自身が胸椎を痛めた体験があるだけに、後藤浩輝の頚椎から来る神経症状のことになる。神経症状というのは、本人以外誰にもその辛さは理解されないからだ。(このことは、かつて復帰した後藤浩輝がすぐに地方交流G1南部杯を勝ったときに記している)神経を痛めたことから来る症状は、自らの意志でどうしようもないだけに、辛さがある。怪我なら治れば元に近く戻ると希望を抱けるのだが、神経症状は、いつ何時それに見舞われるか判らないだけに、ストレスも多く、気を緩めると底知れぬ不安と絶望が顔を覗かせるものだ。

    私自身も、正直に言えば、人前では辛うじて体を壊す以前通りの強気な振りをしているが、それとても実は必死に演じないと支えられずにいる。だから、人前と一人のときでは、他者が見れば別人のように感じるだろう。

    辛うじて、このブログを続けることで、一人のときも強い自分であれと演じているのかも知れない・・・。
    「誰にも言えない世界」や「自分が自分ではない世界」を日々背負って生きている。だがそれを支える糸は、ものすごく細いものだという実感はある。この細い糸を切らさないように、細やかな注意をし続けるために、眼の前に立ち現れたことに好奇心をかき立てようとしているのが本音の叫びでもあるのだ。でも、そんなことは他者には解らない・・・・。

    この心と体を支える糸が切れそうになったことなど、私にだって、実は何度もある。「ああ、切れかかってるな・・」と感じて、楽になりたかったことすらある。

    まして、これまで1447勝を重ねてきた後藤浩輝は、一流騎手として知恵と肉体を酷使するアスリートなのだ。明るく剽軽な笑顔の裏側では、心に抱えたものは、おそらく私以上に大きかったのだろう。

    かつて北海道で後藤浩輝に取材を頼んだことがある。そのときに触れた彼の素顔は、あの剽軽な笑顔はなく、静かにモソモソと語るものだった。しかしそのときには、私が取材に行くというだけで騎手の間で少しばかりの緊張感も生まれる状況でもあったので(誤解のないように付け加えておけば、スキャンダルを突きつけるとかいうものではなく、私の言葉に誠実に答えることが彼らには大事なことだと理解されてもいたし、その為には少しばかりの緊張があったということだ)、私は、すぐに彼の本当の心の中を見抜けなかったのだった。

    結局このときは、調教師との関係もあって実現せずに終わったが、しかしその後、後藤浩輝に関心を持ちながらその姿を追っかけてみると、明るく剽軽な彼の人前で見せるパフォーマンスの裏で、その眼が、本当に楽しそうに笑ってはいないのではないかと思えてならなかった。あれは、地の姿なのではなく、他者と繋がるために演じているのではないかと、ずっと思ってきたのである。脊髄の神経を痛めていた私だけの嗅覚だったのかも知れない。

    でも、だからこそ後藤浩輝は信頼できる勝負師だった。ここぞというときには、自分の世界に行き切って、勝負に絡んできた。私には、人にサービスして剽軽なパフォーマンスする姿はどうでもよかったが、人知れず勝負を賭けてくる後藤浩輝の発する匂いは、頚椎を痛めていてもあたかも鉄人のようにターフで勝負する男の匂いは、大好きだったのである。

    しかし、それももう昨夜、叶わぬことになった。後藤浩輝の中の細い糸を、自ら断ち切ってしまったのだ。

    残念でならない・・・。

    騎手後藤浩輝、40歳。
    もう今頃は、先に旅立った平目孝志(タカユキ)や青木芳之や小島貞博、そして癌の病に倒れた蛯沢誠治らと、天国のダービーで騎乗して、その技を誇っているかも知れない・・・・。

                               合掌

                             2011 オークス エリンコート③   2011 オークス エリンコート①





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    category: 異化する風景

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    不死(富士)の国から届いた写真 

                                東野炎杢巻菱湖2

    棋王戦第2局の対局駒が、由進=出石作「淇洲」に決まって後、2年前に由進作「菱湖」東野炎杢盛上げ駒を入手していた富士の麓の不死の国から、メールが届いた。Mさんからだった。

    Mさんは、確かもう5年ほど前に由進駒「水兼成」をオーダーして手に入れ、その後に満を持して好きな「菱湖」をも求め、ずっと手元に置いて、使って磨いて大事にしてきた。それも4人の家族揃ってだ。だから、時間が経って、Mさんの「菱湖」は、手入れされた輝きを放っている。

    ここしばらくは、富士の峰の谷間を飛ぶ鶴の舞に眼が魅かれているようだが、私は、Mさんが生まれて初めて駒師に直接注文したのが由進作「水兼成」だったことを知っているし、新たに東野炎杢「菱湖」を手にしたときの感嘆の声も想像できる。

    駒写真と共に、ただ今印刷中の「粋鏡なる試み~棋道を巡る職人魂」の先行予約を頂いた。ありがたいことであるが、1冊とは言わず、何冊でも皆様にお届けくださいませと、返信しておいた。まあ、図々しいお願いなのは、承知の上で、あえてお願いしておいたのである。スイマセン・・・。

    さて、出石(由進)作の「菱湖」である。
    今度の本の表紙ページに新作の「菱湖」を大きな扱いで載せた。担当したデザイナーの眼が、何故かこの作に向かったという理由もある。

    それもそうだろう。今回の「菱湖」は、今までの出石(由進)作から、またひとつ進化をしているのだ。
    本の中で取り上げた名工職人たちの魂を引き受けるかのように、昨年秋から出石は、新たに「龍祖八部作」を統一テーマにして、八書体の字母の再構成に挑んでいた。すでに「龍鱗の駒・菱湖」、「龍道の駒・無剣」、「龍吟の駒・錦旗」、「龍妙の駒・清安」が完成して、来月には「龍玄の駒・水無瀬兼俊」などが出来上がる予定になっている。どの駒も、目を瞠らされる出来具合だった。例えば「錦旗」にしても、王将玉将の安定感は、これまでのこの書体には見られなかったものである。「無剣」の微妙な線の揺らぎ、「清安」の放つ独特な風情など、随所に、本流を辿り同時に本流から離れようとした出石の表現衝動が込められている。

    ある種の緊迫感すら漂う、その圧倒的な完成度に、せめて「清安」までは本の掲載に間に合わせようと、実はスケジュールを遅らせもした経緯もある。

    そんな裏事情を知って、改めて表紙写真を楽しんでいただければ幸いである。 DSCN1786.jpg

    どこがどう変化して行ったのかは、じっくりと眺めていると理解できるだろう。言えることは、駒というものは、わずか0.1mmの線の差で大きく印象は異なってくる繊細さがあるということだ。

    出石の「菱湖」も、2年半前に手にしたMさんの「菱湖」からもまたひとつ進化を見せている。いつか機会があったら、2組を並べて、駒書体の進化を確かめることができたら勉強になるし、作家の成長も知ることができるだろう。

    完成した本を手にして、Mさんが出石その他の駒写真を見て、どんな表情を見せるだろうかと、私は今から楽しみにしている。


    先行予約は、コメント欄から秘密メールでお願いします。追って私からご連絡をさせていただきます。なおメールは表に出ることはありませんので、ご安心くださいませ。  鶴木》





    category: 将棋駒

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    新「古流水無瀬」その後~習志野のTさんから 

    習志野のTさんから、久し振りに駒写真が送られてきた。

    勿論、昨年9月に入手した新「古流水無瀬」である。 出石古流水無瀬-07


    Tさんは、その後、なじみの青山碁盤店で高級平箱を購入して、棋士の指導将棋の場に持ち込んで使い込んでいるらしい。

    だからこんな写真だった。    古流水無瀬(王将)     古流水無瀬 出石師揮毫 (3)
    王将玉将が高級平箱の上で、まるで鏡面仕上げの平箱の木地にその姿を映している。
    出石の揮毫入りの桐の平箱は、昨年秋11月の佐藤将棋教室の折りに、作者出石に頼んだものだ。大事に可愛がっている。

    たまたま指導将棋の相手が、本田小百合女流だったときには、この駒の銘を見た本田女流と、駒の話で盛り上がった。お酒の強い本田女流と出石は、日本酒友達だから、或いはその場の話も将棋や駒の事から発展したに違いない。

    いずれにせよ、愛する斑入り柾目の盛上げ駒を所有して、大事に磨き上げ、棋士の指導の場で使う幸せを、Tさんは堪能しているのだ。羨ましい限りだ。

    このTさんは新刊本「粋狂なる試み~棋道を巡る職人魂」を先行予約するついでに、愛用の駒写真を送ってくれたのである。Tさん以外にも、楽しみにしていてくださる方たちから反響があり、すでに何人もの方たちから、私に、先行予約の連絡が届いている。

    感謝に耐えません。
    もし他にも関心を持たれた方がいらっしゃったら、遠慮なさらずコメント欄からメールを頂ければ、と思っております。出版不況の折り、皆さんのお力をお貸しくださいますよう、おん願い奉りまーす!!

    で、この際ですから、内容を一部ご紹介しておきます。 DSCN1798.jpg    DSCN1799.jpg

    目次の一部と、紹介駒写真の一部である。
    勿論、完成品は、カラーグラビアとなる。

    今まで断片的にしか語られてこなかった事象の集大成の内容となっている。

    盤や駒、将棋文化に触れてみたい方には、格好のお勧め本であると、ここはひとつ強気に申し述べておきます。






        

    category: 将棋駒

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    2015 フェブラリーS 東京ダート1600m その② 

    自宅に帰りついたのは、2時過ぎ。
    レッドアローの中では、眠さをこらえて新聞に眼を通していた。が、結論を変える気はなかったので、何度読み直しても、武豊コパノリッキーから、内田博幸インカンテーション、北村宏グレープブランデー、そして心情応援のベリー・ワンダーアキュートの相手3頭が頭に浮かんでは消えた。

    それにしてもコパノリッキーである。昨年の勝利は、最低人気での意表を突いたものだった。それが、1年の間にさらに実績を積み上げて、今年は武豊の騎乗で堂々の1番人気の馬となった。
    かつて河内洋(現調教師)からこんな話を聞いたことがある。騎手の取材を重ねていた頃だった。たまたまランドヒリュウの高松宮杯の話になった。
    「みんなね、高配当になると、そのときは穴馬と思うんだよ。でも、その後2・3戦して好成績の結果を見ると、気づくのさ。いや、そうじゃなかった。あの馬は強い馬だったんだとね。人気は人がつけるもので、馬の強さと比例しているとは限らないのさ・・・」
    そうなのだ。去年のコパノリッキーは、穴馬ではなく、まだ強さを発揮していなかった馬だったのだ。その後の地方交流G1や、前走東海Sの圧勝こそが、本来この馬が持つ強さなのだ。先行して抜け出す武豊の騎乗も、アクシデントがない限り盤石のものとなるはずだ。

    ドバイを目指すホッコウタルマエが出走しないなら、相手も前走で気配の変化や負けて強しの可能性を見せた馬だろう。
    とすれば、負けて強かったインカンテーションと、逃げる変化を示したグレープブランデーとなる。

    河内洋の話を懐かしく甦らせた私は、そう言えばワンダーアキュートの調教師佐藤正雄が騎手時代に、ニシノフラワーの騎乗を桜花賞直前に河内洋に男気を示して譲ったことも想い出していた。その期待に応えた完璧な騎乗を河内洋はやり遂げたのだった。そう思うと、何となく心情的にワンダーアキュートを応援したくもなってしまったのである。でも位置付けは、あくまでもインカンテーション、グレープブランデーの後にした。

    GCを見始めたのは、9Rの直後だった。若い体力があれば、池袋から府中に向かったのだろうが、今はもう無理ができない。競馬もGCで見ることが多くなっている。

    Feb.Sのパドックまでは、コーヒーを飲みながら、最終点検で新聞を眺めて過ごした。
    昨夜のうちにひと雨降った馬場も湿った程度で、有力とされる出走馬たちは、総じて状態も気配も良さそうに見えた。パドックで勝ち馬を見出そうとしたら、相当な迷いが生じただろうが、すでに金曜の夜から私の結論は出ている。迷わず、3頭プラス1頭の心情応援馬を中心に眺めた。そして安心を覚えた。だからパットで、残っている分まで買い足してみた。

    芝からのスタート。何と逃げると目されていた松山コーリンベリーが出遅れた。武豊コパノリッキーもスタートはあまり良くなかったが、芝からダートに移る辺りではマイポジションを確保した。大外から人気薄の横山典アドマイヤロイヤルが活路を見出すように先頭に立った。

    前半5F60秒のスローペースとなった。が、スタート直後の3Fが、12秒3、10秒6、11秒4と早くに流れたために、戸惑いや迷いを覚えた騎手もいただろう。

    インカンテーションもグレープブランデーも、この日は好位の後ろのポジションを確保していた。勝負気配ありだ。

    となれば、後は4コーナーを廻ってからのサバイバル戦となる。耐えながらそれでも伸びる馬にしか勝機は開けない。

                          15Febu.S コパノリッキー 直線     15フェブ.S ゴール前

    武豊コパノリッキーは、危なげのない2連覇を飾った。内田博幸インカンテーションが2着を確保し、戸崎圭太ベストウォーリアが3着。北村宏グレープブランデーはインから伸びようとしたが4着、心情応援のベリー・ワンダーアキュートは好位で先行したが9着だった。

    ゴールイン直後、2着に敗れた内田博幸が、馬上から勝者武豊に握手を求めたのは何故だったろう?
    おそらくスタートを決めて思い通りに騎乗ができた自らの騎乗に納得して、それをも凌いだ勝者に対する敬意だったのではなかろうか。

    こうして2015年最初のG1は終わった。

    が、私にはまだ続きがある。決め打った結果に調子に乗って、何の検討もしていなかった最終の金蹄Sに手を出してしまったのだ。本来こうしたことは私にはタブーなのだが、愚かなお調子者のサガである。

    案の定、結果は単勝180倍を超える人気薄の武士沢ナリタポセイドンが勝ち、3連単も150万馬券となる予想外の結果となった。買える訳がない。じっと検討することもなく、軽いノリで手を出すと、魔性の落とし穴が待ち受けているのだ。

    ああ・・・。プラスの半分を持ち出しにして、何かと忙しかった週末が、結局は反省と後悔で終わった。それもまた、今の私には、身分相応なのだろう。

    これもまた競馬だ。競馬は週末の祭りである。熱情溢るる祭りにするのも、冷め冷めとした祭りにしてしまうのも、全ては、その日の自らの想像力がもたらすのだ。その為には、細心の注意と大胆な攻撃こそが有効手段となる。祭りを言祝ぐためにも、頭から邪な思考を排除して、ピュアにあくまでもピュアに、また来週も想像力を働かせてみようか。ああ・・・。

                              15フェブ.S コパノリッキー 祝:コパノリッキー。
    ☆コパノリッキーは、翌23日、左前脚とう骨遠位端骨折が判明した。危なげのないFeb.S2連覇も、自身にとってはある種命がけの好走だったということである。私たちは、こんな競走馬の宿命をも理解しておくべきなのだ。










    category: 競馬

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    2015 フェブラリーS 東京ダート1600m その① 

    金曜日の夜、棋王戦第2局対局駒決定の知らせの後、担当のFと 新刊本「粋狂なる試み~棋道を巡る職人魂」の最終段階の電話打ち合わせを終えて、見本本を読み直しながら最後のチェックをしていたとき、カメラマン石山勝敏から、前週の共同通信杯とクィーンSの写真が送られてきた。

    確認して、サンキューメッセージを送ったのだが、その文面は「写真が届きました。ありがとうです。今週はフェブラリーS。いい写真を期待しています。主役はユタカかなぁ・・。私は、コパノリッキーから、7.13.14あたりを応援する予定です」と記した。

    前走のトライアル東海S(G2)のコパノリッキーの他馬を寄せつけなかった圧勝振りと、スタートで落鉄した不利もあって3着に惜敗したインカンテーションの印象は強かったし、同じくトライアルの根岸Sで、最後に失速したとは言え逃げて新境地を見せたグレープブランデーの、最近にない変身振りもまた期待を持てるように思えた。何と言っても2年前のフェブラリーSの覇者である。14のワンダーキュートは、まだ中央のG1に届いていない9歳馬へのささやかな応援のつもりだった。

    明けて土曜日。
    この日は、見本本を見せる為と、同時に、木地作りの研修に杉亨治の元に上京する2番弟子清征と会うために、夕刻には粋鏡庵に行く予定だった。午前中に細々とした仕事を済まして、2時半のレッドアローに乗らねばならない。

    となると、今日のメインである長距離3400mのダイヤモンドSは実況では見られない。家を出る直前に、ハンデ頭58Kgのフェイムゲームを外して、ダイヤモンドSはほんの少しだけ購入し、ついでにフェブラリーSも、決めた通りに馬連で押さえておいた。

    15ダイヤモンドS フェイムゲーム②   2015ダイヤモンドS①

    しかしダイヤモンドSは、トップハンデをものともせず、北村宏フェイムゲームが圧勝したようだったが、私は何も知らずに、粋鏡庵で見本本の話をしながら、清征の到着を待っていた。

    その夜は遅くまで当然のごとく棋具や駒作りの話になり、眠りについたのは午前1時頃だったろう。特に話が盛り上がったのは、清征が、師匠出石の新作である「龍祖8部作」のうち、これまでに出来上がっている龍道の駒「無剣」、龍鱗の駒「菱湖」、龍妙の駒「清安」、龍吟の駒「錦旗」を前にして、フーッと感動の吐息を漏らしたときである。これらの新作は、最高の木地を使って、かの龍山字母紙に再度帰りつつ、しかし同時に、また細部の検証を重ねて離れながら、新たな再生を試みた駒師出石の渾身の作品であったからだった。漂う気品は、凄味さえ放っていた。

    翌、日曜日の朝、奥鬼怒に出かける竹井粋鏡と別れて、私と清征は池袋に向かい、1時間程朝のコーヒーを楽しんだ。実は、開店時間を迎えたら熊本ラーメンである「桂花ラーメン」を食べてみようかと決めていたのである。

    学生の頃、テント芝居を見終えた深夜に、初めて狭過ぎる「桂花」新宿東口店を知って以来の太肉麺(ターロー麺)のファンなのだ。しかし、数年前に、経営陣の不始末なのか店は流行っているのにM&Aされて経営母体が変わった。

    同時に、今は味も変わっている気がする。かつての麺は、固く引き締まっていて、それが食べながらスープに馴染むと、しっとりと通常の麺に変わる様な不思議さがあった。しかし今は、普通の麺に近い。焼きニンニクの味わいもスープのコクも以前より落ちた気がする。

    それでも、太肉とキャベツ、茎わかめとシナ竹と味付け卵と、馬油と豚骨スープの入り混じったラーメン宇宙を求めて通うのだが、食後に何となく物足りなさを覚えている。現在の980円という価格は、味のコストパフォーマンスからすれば高過ぎる気がする。せいぜい800円が適正価格だろう。お土産用の麺も1.5倍以上に値上がりしたし、多分現経営陣は、長年のコアな客が求めていた密やかな味への期待よりも、経済効率だけを追っかけていると思えてならない。

    残念だ。それでも私の自虐的な「桂花太肉麺」の探求の旅は続いているのだ・・・。勿論、以前の味を知らなければ、こんなものかと満足はするに違いないのだが・・・。

    ともあれ、私と清征はそれなりに「桂花」ラーメンを愉しみ、昼前に池袋駅で別れて、それぞれの予定に戻ったのである。

    私は12時半のレッドアローに乗って自宅に戻った。
    勿論、今日のフェブラリーSに間に合うようにである。


    ~この項、続く。






    category: 競馬

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